賃貸差し押さえ物件

 

不動産業者が物件の取引を行う際に、非常に神経を使うのが物件調査に関する事項であると言われています。

売買の仲介ともなれば、取引後のトラブルを回避するため、物件の現地調査に始まり、法務局絡みの謄本調査、都市計画の内容を確認する行政調査などが念入りに行われることとなりますが、これが賃貸の取引ともなれば、「殆ど調査をしていない」という業者も決して少なくはないようです。

確かに売買に比べれば、賃貸の取引は事前の物件調査により契約条件が大きく代わるケースは少ないはずですが、気を抜いていると「とんでもないことに」発展する可能性も無いとはいえません。

ましてや物件の管理をしていない「客付け会社」の立場であれば、賃貸借契約書賃貸の重要事項説明書に捺印をしているにも変わらず、殆ど物件のことを知らないというパターンも少なくないはずです。

そこで本日は、管理人が危うくトラブルに陥りかけた「賃貸差し押さえ物件の契約トラブル」について、お話してみたいと思います。

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取引はこうして始まった

現在勤める不動産会社に籍を置いて3年目、賃貸部門でもそれなりのポジションに就いた頃、この事件が発生しました。

それなりのポジションとは言え、相変わらず給料は歩合制でしたし、名刺にちょっとした役職が書き加えられて程度のことで、来店されたお客様を物件にお連れしたり、管理物件の巡回を行うという、これまで通りの業務をこなす毎日です。

そんなある日、社会人になって5年目というOLさんのお部屋探しの依頼を受けます。

ちょうど夏の時期であり、募集中の物件も少なかっため、なかなか成約に至らずおりましたが、その日、ある物件で遂にお申し込みを頂くことに成功しました。

物件のスペックは1LDKのマンションタイプ、築後15年という代物で、お部屋のクオリティーも「それなり」という物件でした。

早速、現地から管理会社に電話を入れ、申し込みをしたい旨と、私の事務所に申込み書式をファックスしてもらえるよう依頼します。

そしてお客さんの希望により、帰り際にマンション全体を見て回った上で、会社に戻ることにします。

しかしこの見回りの際、私は少々気になる光景を目にしていました。

それは最上階にあるお部屋の前で、インターフォンを鳴らし続けるガラの悪そうな男達の姿でした。(ちなみに申込み物件とは違うフロアーです)

彼らが集っている部屋の表札には「●●」という名前が掛かれており、この物件の名前も「ハイツ●●」でしたので、『もしやオーナーさんの部屋かも?』と思いはしたのですが、所詮私は客付け業者

あくまでも申し込みを入れるまでがお仕事であり、正直オーナーさんの事情など無関係な身分です。

彼らを刺激しないように横を通り過ぎ、物件全体を見終れば、後は申込書を書いて頂くだけとなります。

幸い、大手の企業にお勤めのお客様でしたので、何も問題なく審査も通過し、契約日の設定も完了。

通常であれば、ここで客付け業者としての仕事は終了なのですが、実はこのお客様、未だに私の会社に支払ってもらうはずの仲介手数料をお振込み頂けずにいたのです。

どこの賃貸会社もそうなのでしょうが、月の売り上げには締日があり、「この日までに入金された手数料は今月の給料に反映される」などのルールがあるもの。

丁度この時期は締日の直前でしたので、慌てて連絡をしてみたのですが、支払い先を勘違いしたお客さんは管理会社との契約に「私の手数料」を持参しようとしていたのです。

もちろん誤って管理会社に手数料を持って行ったからと言って、私がお金をもわえない訳ではありませんが、問題は時間となります。

売上を確保するため、どうしても今日中にお金をもらいたい私は、「それでは私が管理会社まで車でお連れしますから、その際に手数料を頂けますか?」と提案してみました。

立地的にも少々不便な場所にある管理会社でしたので、お客様も快諾して下さり、賃貸契約に客付け会社が同行する取引を行うこととなったのです。(実はレアなケースです)

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恐怖の差押え物件

管理会社には、私が同行することについて特に連絡も入れていませんでしたから、お客と共に現れた客付け業者の私に当初「ギョッ」としておられましたが、事情を説明した上、契約に立ち会わせて頂くこととなりました。

既に何年も不動産屋さんに勤めていますが、他社の賃貸借契約に立ち会う経験はありませんでしたので、「これは勉強になる・・・」とじっくり説明に耳を傾けます。

そんな中、物件の登記簿謄本に目をやった際、ある問題に気付いてしまいました。

それは登記簿謄本の甲区欄(所有権に関する事項が記された欄)に「差押え」という文字が記させれていたのです。

賃貸の契約を経験された方の中には、ご存じの方もおられるかもしれませんが、賃貸借契約締結前から「登記簿謄本の乙区欄に抵当権の設定」が行われている物件には『ある種の説明』が必要となります。

乙区欄に記載される抵当権とは、物件のオーナーが銀行などに借り入れを行い、対象物件を借入の担保として提供している場合に印字される事項です。

もちろんローンを組まずに物件を購入出来る大家さんは少ないので、抵当権が付けられていること自体は問題がないのですが、

万が一返済が滞った場合には、この抵当権を元に甲区に「差押え・仮差押え」などの権利が設定され、最終的には不動産の競売に掛けられることとなります。

そしてこの状態になり、競売で第三者が物件を競落した場合には、抵当権設定後に賃貸借契約を締結した入居者は競落人に対抗出来ず、6ヶ月の猶予期間をもって物件からの退去を余儀なくされるのですが、

既に「差押え」が登記されているということは、何時この退去命令が下される判らない状態な上、競落人からは敷金の返金を受けることも出来ませんから、これは絶対に説明しておくべき事項となる訳です。

そこで慌てて賃貸の重要事項説明書を確認しますが、差押えに関しては一切説明がありません。

説明をしている管理会社さんとは、これまで取引したことはありませんし、面識もない上、担当者はかなりのベテラン風。

ここで私のような若造が、「差押えの件は大丈夫ですか?」なんて口を挟むのは、なかなかのハードルの高さです。

「大丈夫、きっと最後に説明があるはず・・・」、そう信じて待ちますがもはや契約は終了直前。

客付け会社とは言え、私も重要事項の説明書に仲介の印を押していますから、トラブルが発生すれば共同責任は逃れられません。

止む得ず、担当者の言葉を遮り「差押え」の件にツッコみを入れてみます。

『何をバカな・・・』という表情を浮かべる管理会社の担当ですが、謄本を見て顔色が変わるのが見て取れました。

ところがこの担当者、「まぁ、大した問題じゃないですから・・・」と話しをまとめに掛かります。

『なんだそれ!』(心の呟き)、もしこのまま契約が終わり、入居後に競売が行われれば、トラブルになるのは必至です。

これを有耶無耶にして言い訳がありません。

黙っていられなかった私は、入居者に「差押え」が登記されていることと、それにより起こり得る問題をその場で全て暴露してしまいました。

その後は正に地獄絵図。

管理会社の担当とは言い合いになってしまいますし、お客さんは泣き出す始末。

ただ、「そんな条件では契約したくない」というのがお客のご意志でしたので、一応は管理会社にお詫びをした上、契約することなく帰路に着くことになりました。

結局、そのお客様とはその日限りになりましたし、管理会社からは「出入り禁止処分」を受けてしまう管理人でした。

でも、「間違ったことはしていない、これで良かったのだ」と今でも自信を持っています。

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差押え物件、始末記

その後、風の噂で聞いたのですが、やはり例の物件のオーナーはギャンブルが元で多くの負債を抱えていたとのこと。

案内の際に見掛けた、ガラの悪い連中は金融屋の者たちであったのでしょう。

そして案の定、物件は競売に掛かったと聞いていますが、結果的に入居者が強制的に退去させられることは無かったようです。(競落人に退去させる意思がなければ、それまでのお話ですので)

それでも「告知するべきことを告知しない」というのは、「不動産業者としても、人としても間違った行いである」と思いますので、後悔はしていません。

もちろん、多くの管理会社が真面目に業務を行っていますから、こうしたタチの悪い会社は極一部なのですが、やはり気を付けたいところです。

今では少々経費は掛かるものの、客付けの立場でも「必ず物件の謄本調査」は行うようにしています。

客付け業者ですと、ついつい管理会社に任せっきりの賃貸契約ですが、こうした落とし穴には是非ご注意頂きたいところです。

ではこれにて、賃貸差し押さえ物件の契約体験記(未遂)を締め括らせて頂きたいと思います。