
不動産の市場を今大いに盛り上げているのが、投資用物件の売買であると言われています。
一昔前までは、不動産業者以外は殆ど手を出さなかった収益物件を、今や一般の方がガンガン購入しておられるのですから、この状況には驚くばかりです。
また、一言に投資物件と言っても、分譲マンションの一室から、一棟アパート、ビルから郊外型店舗まで、その種類は様々なものが存在しています。
その中でも最も購入し易いとされる分譲マンションについては、1K等の間取りなら価格も数百万円と手軽な物件が少なくありませんし、一棟アパートであれば数千万円~1億円くらいまでと、「マイホームを買うよりやや高額」というのがおおよその相場といえるでしょう。
もちろんこれらの投資物件の購入は「安い買い物」とは言えないでしょうが、これから上がってくる収益を考えれば、充分に魅力はあるでしょうし、ある程度蓄えがある方なら「全く手が出ない」程の買い物でもないはずです。
しかしながら、これが一棟マンション、ビルともなれば、価格は数億から数十億に跳ね上がりますから、こうした物件のオーナーになるのは「夢のまた夢」という感じがして来てしまいますよね。
そこで本日は、以前に私が経験した一棟マンション投資の流れをご報告させて頂くと共に、高額物件購入にまつわる様々な出来事をレポートさせて頂きたいと思います。(あくまで買ったのは勤めている会社ですが)
では、ビルオーナーへの道程を見て行きましょう。
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初めての大型物件購入
以前に書いた「一棟アパート購入に関する記事」でも触れましたが、私が勤める不動産会社はある時期から、収益物件の買取に力を入れておりました。
また、不動産会社が投資物件を購入する場合には、多くの企業が転売を目的にしているものですが、私の会社は購入した物件の内、半分を転売、もう半分を長期保有するという少々珍しいスタイルでしたから、
必然的に「転売ビジネス」と「不動産管理」という両面から不動産投資を勉強することが出来き、これは非常にスキルアップに繋がった様に思えます。(その分、苦労も多いようにも感じますが)
なお、こうした転売と保有をバランス良く行って行くことで、我が社が購入出来る物件のグレードも徐々に向上して行き、数年前からは10億レベルの一棟マンションやビルも購入対象となっていました。
因みに私も、仕入れ担当の営業マンとして様々な収益物件の購入に携わって来ましたが、未だに大規模収益物件の取引を経験する機会は訪れず、そのチャンスを常に窺う毎日を過ごしていたのです。
そしてそんなある日、遂に絶好のチャンスカードが私の下に転がり込んで来ました。
その切っ掛けは、数年前に行われた不動産屋さん同士の飲み会で名刺交換をしたAさんという方から、突然電話が入ったことに始まります。
見覚えのない着信番号に少々怯えながら電話応対をしますが、名前を聞いても社名を聞いても相手が思い出せず、飲み会で出会った記憶が蘇って来たのは、要件も中盤に差し掛かってのことでした。
因みにその飲み会の夜はかなり酔っぱらっており、気が大きくなった私は「仕事の話もかなり見栄を張ってしまった」覚えがあります。
そして案の定、Aさんから「十億以上の物件をバンバン買っていると話しておられたので、ちょっと物足りない物件かもしれませんが・・・」なんてお言葉を頂いてしまいました。
確かに十億以上の物件も買えるようになって来たのは事実ですが、「バンバン」は明らかにウソです。
「もの凄い高い物件だったらどうしよう」とドキドキしている私に、Aさんは物件の概要を説明して行きます。
今回紹介してもらえる案件は、昭和54年築の大型一棟ものマンションであるとのこと。
世帯数は50戸で、鉄筋コンクリート造の5階建て、価格は5億円前後となる様です。
「おおっ、5億くらいなら何とかなるかも!」と少々ホッとしながらも、私にとっては初めての高額案件なので、少々興奮しながら社長の判断を仰ぎます。
実際に物件を見に行ったところ、築年数こそ古いものの、なかなか手入れが行き届いている物件であり、5億での想定利回りは14%にも達する模様。
「そんな美味しい話があるのか?」と思われるかもしれませんが、その激安価格のタネは「建物の築年」にありました。
実は昭和56年に建築基準法は大幅な改正が行われており、これ以降の建物は「新耐震基準」という厳しい耐震基準が適応されいます。
これに対して、昭和56年より前の建物に適応されているのは旧耐震基準と呼ばれるもので、その耐震性には大きな差があるのです。
よって金融機関は、新耐震と旧耐震の建物では融資の限度額に大きな差を設けているところも多い上、そもそも「旧耐震の建物は融資対象外」という銀行まで存在しています。
また、今回の建物は建築確認は取得しているものの、完了検査(確認の通り建築が行われているかの検査)が未実施となっており、殆どの金融機関で融資の取り扱いが出来ない物件だったのです。
こうなると、転売目的で本物件を購入出来る不動産屋さんは極端に数が減りますし、地震に弱いと聞くと、一般の方もなかなか手が出し辛いはず。
その点、私の会社は長期の保有が可能ですし、旧耐震、検査済み未取得でも融資を組んでくれる銀行とお付き合いがありますので、正に「我が社のためにあるような物件」ということが出来るでしょう。
そして、こうしたポイントは社長もしっかり把握しておりますから、「話を進めよ!」との指示を頂きます。
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アパートとは異なる大変さが!
社長の鶴の一声により、前向きに話を進めることとなりましたが、やはり不動産購入にはしっかりとした調査をしなければなりません。
過去記事「収益物件購入のポイントと注意点について」でも書きましたが、建物の外観、入居者の暮らし様などから出来る限りの情報収集をした上、行政調査にも万全を期します。
但し、ここで一つ注意が必要なのが、先に述べた「建築確認は取得しているが、検査済証は取得していない」という点です。
詳しくは「建築確認・確認済証等について知っておくべきこと」の記事をご参照頂きたいと思いますが、建築確認は行政に対して「建てる建物が建築基準法の内容に適合しているかの確認をしてもらうこと」を意味します。
これに対して『検査済証』は、「建築確認の通りに工事が完了しているかを検査(完了検査)してもらい、その結果頂ける合格証」ということになる訳です。
そして現在では考えられないことですが、以前は建築確認のみを取得し、後は勝手に建物をカスタマイズして、検査済みを受けないままにしている建物も数多く存在していました。
当然、今ではこうした行為は罰則の対象となりますが、当時は当たり前に行われていた上、行政も黙認していたというのが実情なのです。
もちろん過去に行われたことが遡って罰せられることはありませんが、現状立っている建物が大きく建築基準法に違反しているのは問題ですし、
建て替えの際、「現在の半分の大きさの建物しか建築出来ない」なんて事態は避けたいですから、建築確認と実際の建物の差をチェックして行きます。
なお調査の結果、大きな問題点は発見されませんでしたから、この点はとりあえずは一安心です。
しかしながらここで、収益物件の取引経験が豊かな先輩からある指摘を頂きます。
それは「エレベーター」と「水道の設備状況」は大型物件の要注意項目であるから、しっかりと確認をせよとの内容でした。
エレベーターに関しては、故障などで交換が必要となると、2000万円程度はざらに掛かることもあるので、型が古い場合には状態をしっかりチェックした上、交換も視野に入れて購入価格を決定すること。
また水道については、水圧で直接各階に水を引き込んでいる「直結式」であれば問題はありませんが、
一度屋上のタンクに水を溜める「受水槽式」等の場合には、タンクの清掃などのメンテナンス費用に加え、ポンプの交換費用、直結式への改修費用などについても、視野に入れておく必要があると言います。
普段は全くアドバイスをくれない先輩ですが、やはりこの規模の物件となると様々な不安が過るようなので、ここはありがたく忠告に従うことにしました。
更に、その他もろもろの現地調査を行いますが、問題は特になさそうですので、社内で価格を改めて協議した上で、売主側に価格の打診を行います。
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一棟マンション契約・引渡し
その後、紆余曲折を経ながらも、どうにか売主さんから金額面での合意も頂け、契約・決済へとお話は進んで行きます。
大きな建物の契約となると、書類作りもさぞかし大変なのだろうと考えていましが、内容は「一棟ものアパートと殆ど変らない」ものでした。
そして驚く程にトントン拍子にお話は進んで行き、契約は滞りなく完了し、ついてに引渡しの日を迎えることになります。
残代金の受け渡しに、所有権の移転、最後に大量過ぎる鍵の束と、膨大な建築図面を渡されて取引は完了です。
ここまでの流れは順調そのものでしたが、投資物件のお約束は引渡し後が面倒な点となりますから、決して気は抜けません。
また、その「面倒さの度合い」も物件の大きさに比例して増大していく気がしていましたので、今回はかなりの覚悟が必要そうです。
さて、この記事も大分長くなりましたので続きは次回の記事「投資用一棟マンション運用の注意点をご紹介!(大規模収益物件購入・後編)」にて、運用の模様をお伝えしたいと思います。
ご興味がある方は、是非そちらにもお付き合い頂ければと思います。